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どうも、うどうです

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須崎の花火

6日の花火大会の模様。

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桟敷席。

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曇り空と義母。

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水上花火。

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二尺玉撮影失敗。

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モンブランさん。






  桟敷席


 去る八月六日、私たち一同は、須崎の花火大会へ行ってまいりました。

「今年の花火は桟敷席で見ろうや」
 長年の日課である三時のお茶から帰ってきた義父が言いました。どうやら、行きつけの森の木さんで桟敷席のポスターを見つけ、詳しい情報を得てきた模様です。
 あいにくぼくは、桟敷席について全く知識がありませんでした。しかしながら逞しい想像力で勝手に創り上げたイメージだけは、しっかりと持ち合わせておりました。
 なにしろ桟敷席というものは、富士ヶ浜を一望でき、なおかつ花火が最も良く見える一等地に立派なテーブルを構え、そこに市内の有力者やお役所のお偉いさんたちが集い、その日だけは仕事のことを忘れジョッキ片手に花火を観覧、美味しいお料理がずらりと並び、ビールが空けば蝶ネクタイが気を利かせ、酔いが進み、気付けばやはり仕事の話で、ろくろく花火も見ないまま、二尺玉の音ではっと我に返り、長くなるのでこの辺にしておきますが、金額的には一人一万円前後を予想しておりました。
 だから義父から話を振られた時、ぼくは言下にお断りしました。ぼく、お嫁さん、おちびちゃん、義父、義母、締めて五万円也。仮におちびちゃんは無料だったとしても、到底うちにはそんな余裕ありません。明日をも知れぬ貧乏人には縁遠い世界です。
 見ると、義父はすっかりしゅん太郎になっていました。ぼくはその悲しそうな顔を見て、話も聞かずに断ったことを悔やみました。そして、とりあえず内容だけでも聞いてみることにしたのです。

 義父によると、桟敷席は350席も用意されているとのことでした。ぼくの持っているイメージに早くも疑問が生じました。有力者やお偉いさんが集まるにしては多すぎやしないでしょうか? そもそもそういう集いなら、一般販売などせずうちうちに交渉を進めて予約を取りそうなものです。
 さらに、義父の口から衝撃的な事実が明らかになりました。
「弁当と飲み物付きで、一人二千三百円」
 ぼくの持っていたイメージは、音をたてて崩れました。実際は、年にたった一度の須崎の花火、ちょっと贅沢して観覧しませんか、という庶民向けのプランだったわけです。
 ぼくは自分の早とちりを恥じるとともに、この好意的なイベントに好感を持ちました。もちろん明日をも知れぬ貧乏人には、弁当、飲み物付きで二千三百円が決して安い額とは言えません。しかし、見る場所の決まっている安心と、家族の絆をより深めるきっかけとを考えれば、この投資も無駄ではない気がします。
 結局、たまには家族で出かけてみようかと話がまとまり、せっかくなので仲の良いお友達と職場の事務員さんも誘い、今年の花火は総勢七人、桟敷席での観覧となったのです。

 さて花火当日の夕方六時、軽自動車二台に乗り込んだぼくたちは、富士ヶ浜へと向かいました。お友達の家に車を置かせてもらい、少し歩いて浜へ辿り着くと、チケットに記された甚だ心許ない地図だけを頼りに桟敷席を目指しました。極度の方向音痴のぼくは、あやうく自分の思い込みだけで反対方向へ向かうところでしたが、みんなに諭され半信半疑で屋台の並ぶ通りを抜けると、広く敷かれた茣蓙が見えてきました。そこには、六人ほどが座れる低いテーブルがいくつも用意されていました。それがうわさの桟敷席でした。
 早速ぼくは、チケットを弁当とドリンク券に、さらにドリンク券をビールに交換しました。しかし、お嫁さんはドリンク券を使っていません。
「お茶にでも交換してもらったら?」優しい声でぼくが言いました。
「お茶、持ってきたき。これでビールをおかわりしたらえいやん」
 なるほど、さすが主婦、さすが金にがめついぼくのお嫁さんです。ぼくは、お嫁さんの機転に大変感心いたしました。
 ぼくたちは、浮き浮きと自分たちの席に着きました。靴を脱ぎ、茣蓙に足を放り出すと、なんとも落ち着くではありませんか。ぼくらは、とても良い気分で乾杯をしました。
 お弁当は、大変おいしく、ボリューム満点、さすがのぼくも食べきれない量でした。
「あー、苦しい!」「もう何にもいらん!」「お腹いっぱい!」
 みんなが口々に言いました。
「とうもろこしとかき氷が食べたいねえ」
 義母が言いました。ぼくは義母を見直しました。

 花火までまだ時間があったので、ぼくたちは義母のかき氷を買いに、屋台の並ぶ通りへと出かけました。
 すると、あれほど満腹だったはずのお嫁さんが、フライドポテトを買うと言いだしました。そして早速ポテトの屋台に並ぶと、ぼくにこう言いました。
「まだ奥にもポテトの屋台があると思うき、最後まで見てきて」
 ぼくは、何気なくその願いを聞き入れ、一人歩きだしました。しかし、まだここは入口、延々と屋台は続きます。ぼくはひといきれの中、汗を拭いながら歩きました。
 突然、ぼくは気付きました。今、お嫁さんは並んでポテトを買っています。ならば、わざわざ最後まで行って他の屋台を探す必要などないではありませんか。ぼくは腑に落ちませんでしたが、結局最後まで見て歩き、それからお嫁さんのところへ帰りました。
 驚いたことに、お嫁さんはポテトを買っていませんでした。理由は、その屋台は味の種類が少なかったことでした。そんなこと、並ぶ前にわかることではありませんか。ぼくはまたもや腑に落ちないまま、別のポテトの屋台を教えてあげました。お嫁さんは言いました。
「わたしは義母にかき氷買って行くき、ポテトは買ってきて」
 ぼくは、ますます腑に落ちない気持ちで、ポテトの屋台に並びました。そこは味の種類も豊富で、サイズも大と小とありました。
 ぼくより何人か前のお客さんの時に、店員の金髪女性が恐ろしい声で言いました。
「みんなあ、並んじゅう間に味とサイズ決めちょってよ」
 ぼくは、こんな緊張感のあるポテト屋さんは初めてでした。ぼくは、すぐさま財布からぴったりの金額を取り出し、頭の中で自分の注文を復唱しながら、順番を待ちました。
 そんな思いをして、ぼくがポテトを買って帰ると、お嫁さんはまだ帰ってきていませんでした。
 それからしばらくして、ようやく帰ってきたお嫁さんは、かき氷を買っていませんでした。世の中、腑に落ちないことばかりです。

 さて、みなさんは、ぼくが前回の日記で記述した事柄を覚えておいででしょうか?
 『ぼくが何かする日は大抵曇り、からりと晴れた例しがありません』
 この日とて、例外ではありませんでした。いつの間にか、西の山には真っ黒い雲がかぶさっています。東の空にもむくむくと雨雲が膨らんでいます。
 ぼくたちは不安になりました。もうすぐ花火の始まる時間です、はたして大丈夫でしょうか? 昨年の花火では、観覧中に突然の豪雨が襲い、避難する間もなく見事全身ずぶぬれになり、雨が止むと同時に逃げるように帰ってきたのです。
 そんな精神的外傷を抱える中、とうとう花火が始まりました。しかし、始まってみると花火はとてもきれいで、おちびちゃんも目を輝かせて見ていますし、ぼくもビールの酔いがまわり、不安も遠のき、大変楽しい気分になりました。ぼくたちは笑い合いました。これでこそ家族の絆が深まるというものです。
 しかしその時、一陣の冷たい風が吹き抜けました。ぼくはどきりとしました。確か昨年も同じような風が吹いたあと、あの豪雨となったのではありますまいか。そして、まずいことには、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきたのです!
「大雨が降る!」
 ぼくは、多少の酔いも手伝って、いつもより大きな声で言いました。うちはもちろん、周りのみんなもそわそわとし始めました。おちびちゃんは用意していた黄色い雨合羽を着せられました。
 しかし、雨はそれっきり降りませんでした。おちびちゃんの雨合羽だけが、空しく目立っておりました。

 それからぼくたちは、十分に花火を満喫し、最後に大輪の二尺玉も打ちあがり、めでたく今年の花火大会が終了しました。ぼくたちは人波にもまれながら浜を後にし、桟敷席の素晴らしさを語り合いながら幸せな一日に幕を降ろしたのでした。
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by kawazoeudou | 2011-08-15 21:29 | 詳しい日記
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